図1 日長に応答した花芽形成RESEARCH TOPICS図2 ネナシカズラの花芽形成は宿主の開花の影響を受けない生物科学プログラム 若杉 達也 教授21寄生植物ネナシカズラには根も葉もない 私たちが研究している寄生植物ネナシカズラ(学名 Cuscuta japonica)の属するネナシカズラ属(Cuscuta)は、ツル状に生育し、宿主植物に巻き付き寄生します。種子から発芽したすぐ後には根のような器官が形成されますが、その器官はすみやかに枯れて、その名「根無し蔓」の通り、根がなくなってしまいます。根がなくても生きていけるのは、寄生根という器官を宿主植物に差し込んで、水分や養分を宿主から吸い取っているためです。植物は、葉で太陽光のエネルギーを光合成によって炭水化物に変換して、エネルギー源として利用しています。そのため、植物の生存には葉が極めて重要です。これに対してネナシカズラは、宿主植物が光合成で獲得した養分を吸い取っているので、自分自身の葉で光合成をおこなう必要がありません。そのため、ネナシカズラは根だけでなく大きな葉もありません。ネナシカズラ(C. japonica)は葉がなくても日長に応答して開花する 一般の植物では、葉で日長の刺激を受けて花芽を形成します。これに対して、一般の植物のような発達した葉が存在しないネナシカズラでは、開花時期はどのように決まっているのでしょうか? これまでの研究から、ネナシカズラは短日条件で花をつける短日植物であることがわかっています。そこで、ネナシカズラで花芽形成促進にはたらくFTタンパク質の発現を調べたところ、FTタンパク質遺伝子は長日条件では発現せず、短日条件でのみ発現することがわかりました。また、FTタンパク質遺伝子が発現する場所は、退化した葉にあたる突起状の部分と花芽を形成する(退化した葉の付け根にある)脇芽の部分であることがわかりました。このことからネナシカズラでは、短日条件で葉に相当する器官と脇芽の部分でFTタンパク質が作られ、FTタンパク質が合成された場所の脇芽に作用して花芽を形成すると考えられました。ネナシカズラでは大きな葉がなくても、すぐ近くの脇芽に作用するだけの量のFTタンパク質は作られていると考えられます。ネナシカズラ(C. japonica)の開花は宿主の影響を受けない 他の寄生植物で報告されているように、宿主植物のFTタンパク質が寄生した植物にも花芽を形成させることができるなら、ネナシカズラでも宿主植物と同じタイミングで花芽をつけるかもしれません。そこで、短日植物のネナシカズラを長日植物のシロイヌナズナに寄生させて、長日条件で育てた場合、シロイヌナズナと同様にネナシカズラにも花がつくかを調べました。その結果、長日条件下ではネナシカズラに花芽形成は起きませんでした(図2)。このことから、ネナシカズラは宿主植物の花芽形成促進物質の影響を受けないことがわかりました。宿主植物から様々な物質を吸収し、その中には花芽形成促進にはたらくFTタンパク質も含まれていると予想されますが、ネナシカズラが宿主の開花の影響を受けずに独自のタイミングで花をつけているのはどういった機構によるものか、研究を進めています。理学部英皇娱乐集团ページに各プログラムの研究トピックスを掲載しています→RESEARCH TOPICS葉のない寄生植物はどのようにして適切な時期に花をつけるのか?植物は葉で日長を感受して花をつける 植物の多くは特定の季節に花を咲かせます。そのような季節ごとの開花には、日長に応答して花芽を形成する仕組みが関わっています。日長に応答して花芽を形成する性質を光周性といい、長日条件で花をつける植物を長日植物、短日条件で花をつける植物を短日植物といいます。最近シロイヌナズナやイネといったモデル植物を用いた研究から、日長に応答した花芽形成の仕組みが明らかになってきています。 長日植物や短日植物は、花芽形成を促す日長条件(長日植物では長日条件、短日植物では短日条件)になると、葉で花芽の形成を促進する物質が形成されます。この花芽形成促進物質はフロリゲンと名付けられていますが、その実体は長く不明でした。しかし、最近の研究から、フロリゲンの実体はFTタンパク質であることが明らかにされています。葉で日長の刺激を受け取ると、葉でFTタンパク質が合成され、FTタンパク質は師管を通って、花芽ができる部分(茎頂や脇芽)へと移動していきます。茎頂や脇芽に到達したFTタンパク質は、そこで花芽形成遺伝子の発現を引き起こします。その後、花芽形成遺伝子のはたらきで、花芽が作られ、花が咲きます(図1)。
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