光電変換を利用する安全な殺菌方法の提案とその検証
概要
富山県新世紀産業機構の産学官オープンイノベーション推進事業に採択された「大腸菌の構造破壊を伴わない安全な不活化方法の研究」の検討過程で銀微粒子の光電変換による電磁気作用を利用して細胞構造を破壊せずに病原体を不活化(1)する新規な手法を提案し、電気化学的手法を駆使することでその有効性を実証しました。
研究成果のポイント
一般的な抗菌方法としては、抗生物質の薬理作用や光触媒の活性酸素生成作用が知られていますが、病原体構造の破壊を伴うものが殆どであり、内毒素(2)の発生を理由に必ずしも動植物に優しくはありませんでした。本研究は、銀微粒子プラズモンを用い環境に溢れる光を殺菌に活用しながらも細胞レベルで動植物への安全性を高めた世界初の殺菌方法の提案に結実しました。
研究の背景
家畜の生産性を落とす大腸菌症克服手段として銀ナノ粒子のプラズモン応答(3)による微弱な電磁気増強作用を病原体の不活化に応用する試みでその膜構造を破壊しないことを実証する必要が生じましたが、迅速簡便に病原体細胞の活動性を評価する安価な方法がありませんでした。
研究の内容と成果
この問題は、富山大学学術研究部(工学系)篠原教授らが開発した細胞膜内で産生される NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元体)(4)量を電気化学的に追跡する分析手法の採用により解決されました。今回、同教授と(株)伊都研究所の共同研究では、蓄電可能な太陽電池開発から派生したABC3元複合体微粒子の電磁気作用に基づいて大腸菌の膜構造を破壊することなく、細胞膜を介して菌体の生存活性を大きく抑制し、不活化できることを細胞内NADH量の計測から明らかにしました。また、大腸菌を不活化する微量濃度のABC3元複合体(5)微粒子をラット等の動物細胞へ投与しても動物細胞への悪影響はほぼないことも示されました。この研究成果は、今後、種々の細菌やカビ胞子に加え溶剤耐性を示す芽胞菌の殺菌、あるいは喫緊の社会問題と化した鳥インフルエンザウイルスや英皇娱乐集团等の感染遮断に効果的な不活化(撲滅)剤への応用が期待されます。
今後の展望
人畜無害な特性を活かして農林畜産分野の植物活力剤?家畜飼料の防腐性?抗ウイルス性の増強、あるいは人体への安全性を重視する接触感染遮断用途の消臭剤?塗料?化成品プラスチック製品への応用を念頭に外部連携企業と共にその実用化に取り組みます。
用語解説
(1)不活化
細菌等の細胞内代謝反応を阻害し、細胞の分裂、増殖能を失活させること。
(2)内毒素
グラム陰性菌の細胞外膜にあるリポ多糖で、細菌が壊れたときに遊離して毒性を示す。
(3)プラズモン応答
金や銀などの貴金属微粒子中にはプラズモンとよばれる電荷分離した自由電子の集団振動(粗密波)が存在しており、ある条件を満たす光(電磁波)を照射すると、そのエネルギーが吸収されプラズモンが増強され、電磁気作用を生じる現象
(4)NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元体)
細菌から動植物細胞まで、細胞内で広く働いている酸化還元反応に必要な補講素。その還元体がATP合成の駆動力となる。
(5)ABC三元複合体
Ag(銀微粒子)、B(ボロン化樹脂半導体)、C(粘土鉱物)から成る反応物
関連する論文発表
- Kengo Ito, Tohru Nishibe, Masakazu Kawahara, Seiichiro Tsujitsuka, and Kenji Tanaka, Novel Efficient Antibacterial Action of ABC Semiconductors, Proc. 10th International Symposium on Organic Molecular Electronics, May.30 (2018).
- Hiroaki Shinohara, Electrochemical Interface Using a New Double Mediator System for Intracellular NADH Sensing and Acute Cytotoxicity Test, Abstract No. K02-2785 (Keynote), Pacific Rim Meeting on Electrochemical and Solid State Science 2020, October 4-9 (2020).
ABC3元複合体とは、(株)伊都研究所が創り出した銀微粒子(Ag)?ボロン樹脂(Boron)?クレイ(Clay)を共吸着により複合した新規の安定性に富む粒子状の光半導体で水/有機系での分散が可能です。詳しくは、同社HPに記載。