前臨床アルツハイマー病モデルの長期記憶が卵巣摘出で改善: 卵巣機能とアルツハイマー型認知症の意外な関係
ポイント
- 前臨床期アルツハイマー型認知症 (AD) モデル (AppNL-G-F マウス)(※1)を用いて、卵巣機能がその病態に与える影響を明らかにしました。
- 閉経モデルとされる卵巣摘出(※2)により前臨床期ADモデルマウスだけでなく野生型マウスでも記憶機能や病理像の一部に改善が認められました。
- これらの成果は、アルツハイマー病などの加齢に伴う性特異的な病態に対する新たな視点をもたらすものであり、それらの予防?治療戦略の開発に貢献することが期待されます。
概要
富山大学学術研究部医学系の藤井一希助教と高雄啓三教授は、名古屋市立大学大学院医学研究科の齊藤貴志教授、理化学研究所脳神経科学研究センター 神経老化制御研究チームの西道隆臣チームリーダー(当時)と共に、アルツハイマー病の前臨床段階を再現するマウスに卵巣摘出を行うと、不安様行動の亢進や記憶機能の低下が改善されることを明らかにしました。さらに、野生型マウスでも病態軽減効果が認められ、卵巣摘出により加齢に伴う記憶機能の低下やアミロイドβ(※3)の沈着が軽減することを見いだしました。本成果は、閉経や加齢に伴うアルツハイマー病を初めとする病態の性特異的なリスクを理解し、予防や治療戦略を考える上で重要な知見となることが期待されます。
本研究成果は、「Scientific Reports」に 2025年10月28日(火)(日本時間)に掲載されました。

用語解説
(※1)前臨床期アルツハイマー型認知症 (AD) モデル (AppNL-G-F マウス)
ヒト化したアミロイド前駆体タンパク質遺伝子に遺伝性アルツハイマー病の遺伝子変異を導入した遺伝子組換えマウス。ヒトの前臨床期のアルツハイマー病に近いアミロイドβ蓄積を示すモデルとして用いられています。
(※2)卵巣摘出
マウスの卵巣を外科手術で取り除く処置。卵巣から分泌される女性ホルモンが急激に減少するため、閉経後の女性の体内環境を模倣するモデルとされます。
(※3)アミロイドβ
アルツハイマー病患者の脳内に蓄積するたんぱく質。アルツハイマー型認知症発症の原因の1つだと考えられています。
研究内容の詳細
前臨床アルツハイマー病モデルの長期記憶が卵巣摘出で改善: 卵巣機能とアルツハイマー型認知症の意外な関係[PDF, 633KB]
論文情報
論文名
Ovariectomy attenuates phenotypes related to Alzheimer’s disease in a preclinical mouse model and in C57BL/6J mice
(卵巣摘出は前臨床期アルツハイマー型認知症モデルとC57BL/6J系統マウスのアルツハイマー様表現型を減弱する)
著者
Kazuki Fujii, Yumie Koshidaka, Yuko Yanagibashi, Mayumi Adachi, Mina Matsuo, Kimihiro Kimura, Takashi Saito, Takaomi C Saido, Keizo Takao* (* corresponding author)
(藤井一希、腰高由美恵、柳橋裕子、安達真由美、松尾美奈、木村公洋、齊藤貴志、西道 隆臣、高雄啓三*)(* 責任著者)
掲載誌
Scientific Reports
DOI
https://doi.org/10.1038/s41598-025-20006-9
お問い合わせ
富山大学学術研究部医学系 行動生理学講座
教授 高雄 啓三
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