悪いことばかりを思い出してしまう脳の癖を和らげる 新しい記憶介入プログラムがストレスを軽減させることを世界で初めて実証―ストレスに関連した精神障害の予防?治療に役立つ可能性―
ポイント
- ストレスに関連した精神障害として知られるうつ病※i)や不安障害※ii)の患者、またこれらの障害の発症リスクをもつ健常者では、物事の良いことよりも悪いことを記憶しやすいという脳の癖?偏り(=「記憶バイアス※iii)」)を持つことが知られている。
- 記憶バイアスはうつ病や不安障害の発症や悪化と密接にかかわっていることが長年指摘されてきたが、これを和らげる介入プログラムの研究はほとんど進んでいなかった。
- 本研究は、記憶バイアスを和らげる新しい認知介入プログラムを開発し、ストレス軽減に有効であることを世界で初めて示した。
- プログラムを実施すると記憶バイアスが和らぎ、ストレスからの回復力が高まるとともに代表的なストレスホルモンであるコルチゾール※iv)の分泌量が低下すること、また感情の制御や他者との良い記憶の想起にかかわる扁桃体と前頭眼窩皮質内側部との間のつながり(脳の機能的結合※v))が強化されることもわかり、その神経作用メカニズムを世界で初めて明らかにした。
概要
富山大学(学術研究部医学系の袴田優子教授)、北里大学(医療衛生学部の田ヶ谷浩邦教授ほか)および国立精神?神経医療研究センター(精神保健研究所行動医学研究部の堀弘明部長)等は共同で、ストレスに関連した精神障害への発症リスクおよび記憶バイアスをもつ人に対して、記憶バイアスを和らげる認知介入プログラム(以下CBM-M)を開発し、その効果および神経作用機序についてランダム化比較対照試験を用いて評価しました。結果として、CBM-M群では、偽プログラムを実施した対照群と比べて、プログラムの実施前後で、ストレス脆弱性および日中のコルチゾール分泌量が低下し、また扁桃体と前頭眼窩皮質内側部(以下mOFC)間の機能結合が増強していたこと、また記憶バイアスの減少規模に比例して、ストレス脆弱性の程度とコルチゾール量が低下していたことが見出されました。これまで研究が進んでいなかったCBM-Mについて効果および神経作用機序を世界で初めて明らかにしました。
本研究成果は、Psychological Medicine (インパクトファクター 5.5、医学(Psychiatry and Mental Health)分野における上位4%のCiteScore) に、2025年12月24日(日本時間12:00)に掲載されました。

用語解説
※ⅰ)うつ病
気分の落ち込みや興味の喪失が続き、食欲?睡眠?集中力などにも変化が生じて日常生活に支障をきたす病気。
※ⅱ)不安障害
実際の危険や状況につり合わないほどの強い不安や恐怖を抱き、心身の緊張や回避行動によって日常生活に支障をきたす病気。
※ⅲ)記憶バイアス
ネガティブな情報をそれ以外の情報(ニュートラルないしポジティブなもの)よりも多く覚えて思い出す傾向。記憶バイアスが強い人は、悪かったことは流れるように良く思い出すが、それ以外のこと(全体の文脈)や良かったことはよく覚えていないと訴えることが多い。
※ⅳ)コルチゾール
副腎皮質から分泌されるホルモン。ストレスに反応して分泌量が増加することから、「ストレスホルモン」とも呼ばれる。
※ⅴ)機能的結合
異なる脳領域における活動が時系列的同期性をもち、機能的に協働するつながり。
研究内容の詳細
悪いことばかりを思い出してしまう脳の癖を和らげる 新しい記憶介入プログラムがストレスを軽減させることを世界で初めて実証―ストレスに関連した精神障害の予防?治療に役立つ可能性―[PDF, 2MB]
論文詳細
論文名
The effectiveness and neurobiological actions of memory bias modification: A randomized controlled trial
著者
Yuko Hakamata, Shinya Mizukami, Shuhei Izawa, Mie Matsui, Yoshiya Moriguchi, Takashi Hanakawa, Hiroaki Hori, Yusuke Inoue, Hirokuni Tagaya
掲載誌
Psychological Medicine
DOI
https://doi.org/10.1017/S0033291725102535
お問い合わせ
富山大学 学術研究部医学系
教授 袴田 優子
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